秋田市埋蔵文化財調査報告書『地蔵田遺跡 旧石器時代編』について
地蔵田遺跡-旧石器時代編-刊行
地蔵田遺跡は、秋田市新都市開発整備事業に伴い昭和60年度に秋田市教育委員会が発掘調査を行い、旧石器・縄文・弥生時代の複合遺跡であることが分かりました。弥生時代については、平成8年に国の史跡に指定され、平成13年度から史跡整備を行い、愛称「弥生っこ村」として市民から親しまれる史跡公園として、保存・活用を図っているところです。
当該遺跡は、発掘調査当初は、「地蔵田B遺跡」と呼んでいましたが、平成8年の国指定の際に「地蔵田遺跡」と改称しています。
地蔵田遺跡の旧石器時代資料については、発掘調査報告書や秋田市史などに概要を示してきましたが、資料全体の内容について報告できる機会がありませんでした。
当該資料は、後期旧石器時代前半期の代表的な資料として全国の研究者から注目されており、その学術的価値をかんがみ、平成22年度に緊急雇用創出臨時対策基金を活用して遺物の再整理を行い、このたび本報告を刊行するはこびとなりました。
このウェブサイトでは、報告書のPDFを公開するとともに、紙面の都合上割愛した石器属性表などの全データを公開しますので、研究資料としてご活用ください。
A4版、234ページ
遺跡の概要
地蔵田遺跡は、秋田市御所野地蔵田三丁目地内、秋田平野南部の御所野台地に所在します。御所野台地は雄物川とその支流である岩見川の河岸段丘であり、遺跡は標高約31メートルの地点で、地形区分では低位段丘面のL1面に立地しています。
遺跡は、秋田新都市開発整備事業に伴い昭和60年(1985)に発掘調査が実施されました。調査の結果、旧石器・縄文・弥生時代の複合遺跡であることが判明しました。遺跡は弥生時代遺構の集落跡が平成8年11月6日付けで国指定史跡に指定され、平成13年度史跡整備を行い、現在は史跡公園として保存されています。
旧石器時代資料は、調査区の東端で検出され、石器は第4.a・4.b層のローム層中から出土しました。旧石器資料の総数は4,447点、32,286.615グラムであり、器種別の内訳は、石斧4点、ナイフ形石器5点、ペン先形ナイフ形石器22点、台形様石器39点(接合して38点)、サイドスクレイパー8点、エンドスクレイパー4点、ノッチ5点(接合して4点)、鋸歯縁石器7点、二次加工のある剥片18点、石核71点(接合して70点)、礫器9点(接合して8点)、剥片1,555点、チップ2,700点です。これらの石材は、約99%が珪質頁岩であり、その他の石材が約1%です。珪質頁岩以外の石材は、石斧・礫器に限られています。
これらの石器から、多数の母岩別資料・接合資料が得られ、剥片生産技術の詳細が判明しました。その結果、明確な石刃技法はなく、横長・幅広剥片生産技術が主体であることが分かりました。
また、石器は14箇所の集中部(ブロック)が認められ、これの集中部(ブロック)が環状に分布し、いわゆる「環状ブロック群」を呈しています。「環状ブロック群」はこれまでに全国で120箇所発見されており、後期旧石器時代前半期の特徴的な石器分布です。地蔵田遺跡の「環状ブロック群」は、直径約30メートルで、全国的にみると中規模なものと言えます。
以上のような特徴から、地蔵田遺跡の旧石器時代資料は後期旧石器時代前半期のものと考えられます。また、石器ともに出土した炭化物片3点から、次のような年代が得られました。
測定資料名:C-1【IAAA-103442】(ブロック3出土)
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C14年代(yrBP)
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29,720±130yrBP
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暦年較正年代(1σ)(calBC)
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32,773~32,501calBC(61.0%)
32,328~32,244calBC(7.2%) -
暦年較正年代(1σ)(calBP)
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34,722~34,450calBP(61.0%)
34,277~34,193calBP(7.2%) -
暦年較正年代(2σ)(calBC)
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32,827~32,029calBC(95.4%)
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暦年較正年代(2σ)(calBP)
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34,776~33,978calBP(95.4%)
測定資料名:C-65【IAAA-103443】(ブロック4出土)
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C14年代(yrBP)
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30,110±140yrBP
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暦年較正年代(1σ)(calBC)
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32,910~32,677calBC(68.2%)
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暦年較正年代(1σ)(calBP)
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34,859~34,626calBP(68.2%)
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暦年較正年代(2σ)(calBC)
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33,072~32,596calBC(95.4%)
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暦年較正年代(2σ)(calBP)
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35,021~34,545calBP(95.4%)
測定資料名:C-25【IAAA-103243】(ブロック7出土)
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C14年代(yrBP)
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28,080±120yrBP
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暦年較正年代(1σ)(calBC)
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30,662~30,001calBC(68.2%)
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暦年較正年代(1σ)(calBP)
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32,611~31,950calBP(68.2%)
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暦年較正年代(2σ)(calBC)
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30,910~29,736calBC(95.4%)
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暦年較正年代(2σ)(calBP)
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32,859~31,685calBP(95.4%)
補足:
- 暦年較正年代については、Intcal09データーベースとOxCalv4.1較正プログラムを使用
- グラフ提供:株式会社加速器分析研究所
C-1およびC-65の試料によるC14年代で約30,000yrBPという値が、石器の年代を示すものと考えられます。暦年較正年代で約34,000~35,000年前と考えられます。
ブロック別に石器器種の組成をみると、ナイフ形石器・ペン先形ナイフ形石器・台形様石器が環状ブロック群の中央部であるブロック4に集中し、石斧・礫は環状ブロック群の周辺ブロックに分布してます。また、ブロック3・4・7には受熱のある石器と炭化物片の集中地点がみられ、火の使用があったことが推定されましたた。
また、東北大学考古学研究室 鹿又喜隆准教授による使用痕分析の結果から、ブロック4に集中する石器には、刺突に用いられたと考えられる衝撃剥離が特徴的に認められ、一部の石斧は皮なめしと推定された。これらのことを総合して考えると、環状ブロック群の形成要因の一つの解釈として、大型動物狩猟を想定することが可能です。すなわち、ブロック4で複数人による大型動物の狩猟が行われ、その後、獲物を消費する過程で連鎖的に周辺ブロックが形成されたという可能性が推定されます。
以上のように、地蔵田遺跡旧石器時代資料は、日本海側における環状ブロック群を呈する後期旧石器時代前半期の代表的な石器群であり、学術的に貴重な資料です。また、秋田市の歴史を解明する上で欠くことのできない大変貴重な文化財であり、今後も大切に後世に伝えていく必要があります。
石器属性表
調査報告書PDF
報告書PDF第2版
補足:
- 第1版用正誤表を本文に反映させています。
- PDFはファイルサイズが大きいため、リンク先を保存してから開いてください。
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全ページ一括(第2版) (PDF 31.0MB)
A4版、234ページ - 分割 表紙から第3章第2節まで(第2版) (PDF 3.8MB)
- 分割 第3章第3節(第2版) (PDF 12.0MB)
- 分割 第3章第4節(第2版) (PDF 4.6MB)
- 分割 第4章(第2版) (PDF 742.5KB)
- 分割 付編1(遺跡の地形・地質)(第2版) (PDF 827.5KB)
- 分割 付編2(放射性炭素年代)(第2版) (PDF 718.4KB)
- 分割 付編3(石器の機能研究)(第2版) (PDF 810.9KB)
- 分割 英文要旨(第2版) (PDF 535.9KB)
- 分割 写真図版(カラー部分)(第2版) (PDF 7.6MB)
- 分割 写真図版(モノクロ部分)から裏表紙まで(第2版) (PDF 4.1MB)
【参考】報告書PDF第1版
写真
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御所野台地全景
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石器出土状況
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地蔵田遺跡出土石器1
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地蔵田遺跡出土石器2
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