【第3回】伝統の建築様式を今に伝える
秋田の「町家(まちや)」の特徴を継承
旧松倉家住宅は、まさに秋田の伝統的町家の形式を有しており、切妻、妻入り、妻飾り、螻羽(けらば)の深さ、小店(こみせ)、通り庭、卯建(うだつ)などが特徴的です。「足栗毛(あしくりげ)」(秋田県立博物館蔵)や「秋田街道絵巻」(伝 荻津勝孝、秋田県指定有形文化財、秋田市立千秋美術館蔵)などで描かれたような町家が秋田の町家といえます。
「足栗毛」「秋田街道絵巻」に描かれている町家と旧松倉家住宅を比較してみると、旧松倉家住宅は通りに直接面しておらず、敷地のやや奥まった所に建っています。これは、旧松倉家住宅が町中に建っているものの敷地が広く、いわゆる“ウナギの寝床”と言われる短冊状の敷地とは異なることや、通りに直接面して商売をする必要がなかったことがその理由と考えられます。
小店は、仮設店舗としての機能や隣家とつながりを持ってアーケードのような役割を担っていましたが、旧松倉家住宅の小店は敷地に奥まった箇所にあり、隣家とも繋がらない配置なので本来の機能は失われています。店座敷についても、店頭販売などを主とした家業ではなかったので店としての機能も薄いものです。しかし、江戸期の町家の間取りが形式として踏襲されており、伝統的な「片土間2列型鍵座敷付き」の形式をしっかり色濃く残しています。
また、構造の観点からいうと、伝統的技法に近代の新しい技法を積極的に取り入れており、秋田の町家の形式を踏襲しながらも、建物の形態や間取り、規模が大きく強度を持たせる必要性があることなどに対して、積極的に自由な発想でもって斬新な技法を取り入れたことがうかがえます。これらのことが旧松倉家住宅の大きな特徴であると考えられます。
時流に沿って意匠を凝らす
旧松倉家住宅からは、江戸時代の屋敷割が徐々に変化していく中で敷地を大きくできたこと、さらに家業による違い、近世の伝統技法と近代の新技法の融合などにより、独自の町家建築の形態となったことなどがわかります。さらに、部屋などの機能は変化して、もとの機能をもたなくなっている中でも、江戸期の純然たる伝統的な町家の形式をとてもよく残し伝えています。
加えて、かつて“馬市“の開催や宿屋町(馬宿)として繁盛した馬口労町(ばくろうまち)という特徴ある町において、さまざまな家業を営み、各方面で多大な影響力をもちながら豊かに発展した松倉家だからこそ、さまざまな歴史を今に伝え読み解くことができる旧松倉家住宅という貴重な文化財建造物が生まれたと考えられます。
【文章は「秋田県指定有形文化財 旧松倉家住宅修復整備工事報告書」の内容を引用し加筆・修正しています】
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