令和元年度 秋田市エイジフレンドリーシティカレッジを開催しました

令和元年11月12日(火曜日)、秋田市にぎわい交流館AU 2階 展示ホールにて、田中 元子氏を講師に迎え、秋田市エイジフレンドリーシティカレッジを開催しました。マイパブリックや「1階づくりはまちづくり」という考え方、グランドレベルの話を交えながら、市民によるまちづくり、市民が集う居場所づくりについての講演を行い、20代から70代まで77名の一般市民の方が参加しました。
参加者からは、「能動的という部分が印象的で、地域で人と接する際にも大事にしたいと思った」「人口減少が進む秋田でも賑わいが創出できるヒントがあるように感じた」「場所づくりの面白さ、町の可能性について、すごく希望を持った」などの声をいただきました。
講演「1階づくりはまちづくり~地方都市におけるグランドレベルのつくり方~」
グランドレベルの重要性「1階づくりはまちづくり」
グランドレベルとは、私たちが意識的に目の高さを変え、見ようと努力したりする訳ではなく、普段何気なく過ごし、自然な状態で目が向いているところ、地面から建物の1階部分あたりを指している。そして、人が自然に目に入ってくる1階と地面がクロスするところ、グランドレベルを私たちはまちと認識している。
どんなにビルの密室や地下でいいことや楽しいことをしていても、個人性が高まるだけで、共感する機会にならず、まちを共有できない。グランドレベルは日本で全く意識されずに過ごされているが、パブリックとプライベートの交差点である空間は「このエリアに住んで幸せだ」と感じられるかどうかの鍵を握っていると考える。
生き生きとしたまち、豊かなまちとは?
日本の多くの地域で、少子高齢化が進み、人口も減少していく傾向にあるが、あまねく人々がいるな、と実感できるのが「まち」。今の世の中は、若い人のためのカフェ、高齢者のための居場所というように、棲み分けさせられ、暮らしているところがある。しかし、それは本当のまちではない。まちは多様な人々が混ざって暮らしている。まちづくりというと、便利な機能を持たせたい、ああしようこうしようという話がよく出てくるが、人がどのようにそこにいるかが重要である。まちは、人がいることで生き生きとし、生気を宿すものだと考える。
ロンドン交通局が行った実験、研究結果で、徒歩や自転車でアクセスしやすいまちは車中心のまちよりも、地元での買物率が40%も高まったという発表があった。人々が時間を使いたいと考える空間環境づくりとビジネスの業績向上には相関関係がある。また、ロンドン南東部のブロムリー地区で、先ほどの調査結果を踏まえて、まちの1階にお店をつくり、ベンチを設置。人が気持ちよく過ごせる「1階づくり」を試したところ、歩行者数は93%も増加。さらに、買い物やカフェで時間を費やすといった、まちで過ごす時間が216%も高まり、エリアの平均賃金は7.5%上昇、空き店舗は17%も減少したという結果が出た。1階に人がいられるようにすることが、そのエリアのビジネスの業績向上だけでなく、コミュニティの醸成にさえ役目を果たしているのである。
「1階は建物の10%程度しか占めないものだが、人間の経験の90%はそこで起こるものだ」という言葉がある。観光やイベントではなく、人の姿がまちに見え、住み続けたい、いたいという何気ない「日常」、生き生きと潤い続ける、豊かなまちづくりが大切である。
アーバンキャンプとマイパブリック
東京の都会の真ん中、遊休地での「アーバンキャンプ」
以前、東京の神田でイベントとして3日間限定のキャンプ場を作った。都会の殺風景な所ではあったが、参加者は多かった。見慣れたまちではあるが、一等地でテントを張り、膝をついてお茶を飲み、風景を眺める、いつもと違う経験。少し環境が変わるだけ、使い方が変わるだけで、見ているものや触れられる感触は、全く変えられる。つまり、いつものまちなのだが、人々は全く新しい体験を楽しんでいた。
キャンプの実施にあたり、イベントなどを準備したが、参加者はほとんどいなかった。理由は簡単で、普段の暮らしと変わらない、受動的なものであったからである。イベントがなくても、自分の力、自分の好奇心、自分の能動性を発揮するという経験、それぞれが思い思いに楽しむ遊び、普段とは違う遊び方が楽しいということが分かった。
この経験は、人の能動性を発露させるきっかけを作るということを、今後の仕事でもずっと続けなくてはいけないと考える、いい機会であった。
マイパブリック
建物の4階に事務所をもっていた頃、その事務所の片隅に、小さなバーカウンターを作った。名刺交換をした相手に、気軽に職場に来てもらうことは難しい。しかし、バーカウンターというきっかけが1つあるだけで、いろいろな人が来やすくなる。
当時は無料でお酒をふるまい、「また気軽に遊びにおいでよ」と返事することをくり返していた。そのうち、「あの人がくるからこのお酒」「このグラス」「このお花」とワクワクするようになり、来た人の様子を想像して自分が勝手に楽しむようになっていた。誰のためでもない、自分が没頭できるもの、「趣味」であると知り、まちの中でできたらどれほど楽しいかと思うようになった。バーカウンターの移動は困難であるため、屋台を持とうと考え、まずは、ちょっとしたコーヒー道具をかき集めて、初めてのまちデビュー。最初は人が来なかったが、どのまちにも必ずいる好奇心パトロールおじさんがきて、二言三言話をしながらコーヒーを入れているうちに人が集まってきて、コーヒーを飲んでいる人同士が話し始めたり、楽しんだりしていた。コーヒーを介して、誰に対しても声をかけられるし、相手も無視する権利がある、そんな公共的な関係をひととき、たった一人、自分の手で作れるということを「マイパブリック」というようになった。その後、商売屋台ではなく、個人の趣味で持つ屋台「パーソナル屋台」を作った。屋台を引き、まちに出ると、人々が声かけてくれて、人が集まる空間になる。
思いを実現し、多様性を許容できる場所「喫茶ランドリー」
自分が社会で必要とされている、少しでも役に立てていると思える環境に恵まれる人は、私はすべてではないと思っている。そういう環境に恵まれていないのであれば、自分で出ていけばよい。これだけ価値観やスキル、さまざまなことが多様化している現代、「マイパブリック」をまちづくりに生かすことができれば、人々にとって自由でくつろぎのある場所、心地よい居場所が溢れるまちになる。
あまねくすべての人に開かれた、みんなにとって自由でくつろぎのある場所、人の能動性が発露する場所のためには、ターゲティング、マーケティングにより棲み分けをするようなビジネスの定石に頼らずに、ただひたすら愚直に、自分や他人が自由で、多様である、それをお互い許せるような環境づくりをすることだと思った。自由で多様なこと許容する、人はそういう気持ちいい環境があると、つい過ごしてしまう。そんな環境はどうすれば作れるかを実験したのが、「喫茶ランドリー」という店である。
私設公民館をまちの中に作ること意識して開店した喫茶ランドリーは、まちからも店の中からも、お互いが見えるという関係を目指した。喫茶スペースのカウンター、オフィスと呼んでいるダイニングテーブルだけでなく、洗濯機、ミシンやアイロンが揃い、部屋全体をまちの人がシェアしている家事室、まちの家事室ができた。ミシンがある事から実現した「ミシンウィーク」、電子ピアノを持ち込んで始まった「歌声喫茶」、企業の勉強会、軒先マーケットなどが開催された。
開店から半年経った頃、100以上の展示やワークショップが開催された。しかも、喫茶ランドリーが企画したものはひとつもなく、すべてが持ち込みによるものだった。もちろん、イベントがなくても、普段の風景として、いろんな人が楽しんで、使いこなしてくれている。こうして、自分のやりたいことが実現できる場所、さまざまな年代の方がそれぞれ自分の能動性を発露させることができる場所として、進化していった。
補助線のデザイン
真っ白な画用紙を渡されて、さあ自由に描いてくださいと言われると、少し戸惑ってしまい、難しい。しかし、想像を促すような仕組みやきっかけ、うっすらと補助線がひいてあると、そこからその人の中にあった可能性やアイデアが誘発される。
思わず手が動いてしまうようないい補助線になるために、ソフトウェア、ハードウェア、それをうまく機能させるオルグウェアと呼んでいるコミュニケーションを我々は大事にしている。
まとめ
まちづくりのプロと言われることがあるが、まちの中の誰がスターなのか、誰がプレイヤーなのか、誰がまちづくりをするか、答えは「全員」である。つまらない人やただの主婦、そういう人はいない。この場に赤ちゃんがいれば、それだけで風景は変わる。あらゆる人の存在、活動が許容され、迎え入れられる、一人ひとりの個性が密室の中ではなく、能動性にあふれ、やりたいこと、考えていることがまちに表出する。そのようなことが、私が考える、日常づくり、まちづくり、1階づくりである。
質疑応答
質問:まちの中でみんなが集まれる場所を作りたいと思っている。プライベート公民館のようなパブリックさもありつつ、利益を追求しすぎない、そのさじ加減をどのようにしているか教えていただきたい。
回答:もし利益の追求であれば、喫茶店業という儲からない仕事はしなかった。喫茶ランドリーは、空間使用料が一番。こんなことさせて、あれしてもいい、撮影、プロモーションビデオのロケーションに使わせて、そんな人たちの使わせてという使用料が屋台骨である。そのため、少し楽しい感じ、少しだけデザイン、ちょっと素敵という程度にする調整は行った。そのおかげで空間使用料が得られていると考えている。この場所にいたい、使ってみたいと、相手に思わせる状態でないと、このようなビジネスモデルは、成り立たなかったかもしれない。
質問:社会に役立つような趣味と居場所づくりに努めるような市民を発掘する、育成するということに、行政にも少し手を貸してもらいたいと思っている。秋田の方は黙っていても手を挙げない。
回答:
田中氏:よく行政の方が、やる気があるのに、市民がついてこないという話の中で、自由に使っていいと伝えても、誰も手を挙げないと話される。私は内心それは当然だと思う。ディスコに例えると、カッコいい箱、空間というハードウェアがあり、そこで踊っていいというサービスのソフトウェアがある。ただ、夕方5時に扉が開きディスコに行ったら、ミラーボールが回っているだけで、まだ誰も踊ってない時に一人目は誰になるかということ。一人目があまり恰好よく踊ると、他のお客さんは観客になってしまう。ハードウェアとソフトウェアの間を取り持つコミュニケーションであるオルグウェアとしては、あまりよくない。そこを自然な形でリズムだけ取るという具合にすると、もう踊ってもいい時間か、これなら私も踊れると、ダンスフロアに出てくる。この空間を自由に使ってくださいだけではなく、自由はこういうこと、こんな風に楽しんでいいと、誰かが口火を切る、その口火を切るのが上手な人を発掘するということが要になってくると思う。
市:確かに行政は自分でやるのではなくて、皆さんにやってもらいたい。ただどうやったらできるのか、あるいは声をかけて、この人とこの人が顔を合わせられるような場所を作るなど、そういう形で関わっていければよいと思っている。その中で皆さん同士の関わりが生まれ、何かやってみようかという動きにつながっていければよいと思っている。
田中氏:喫茶ランドリーでは、たった半年で100以上の持ち込み企画が行われたが、要因の一つが、「やってもいいです」ではなく、「いつやる?何やる?なんか手伝えることある?」「チラシ作れないなら、作れる人を紹介してあげる」というように、私なんかができるのかしらという人のおしりに火をつけていくことである。できれば、きっかけを作るところ、背中を押してあげるところまで、行政がして、一緒に踊ってあげるぐらい応援してもらえたら嬉しい。
質問:学生です。民間の会社の方と作業を進めていく中で、どうすれば、自分がやりたい、絶対面白いと思っていることを相手に納得していただけるのか、相手のどこに訴えかけるとよいのかを伺いたい。
回答:これは意外とコツがある。仕事において、これだけすごいこと、魅力的なこと、人の役に立つと、あなた自身で伝えられる力は3割だとする。では残りの7割は何かというと、聞いた担当者がうまく上司に説明できるシナリオなのかどうかである。担当者はトップではない。社長に話して頷くか首を振るかで決まる。上司に対して会社のメリットになる、会社のやりたいことにこれだけ近いと説明できることが、彼らにとって一番自信につながる。いかにあなたの会社に、まちに、世界に魅力的かということを伝えてあげてほしい。
PDFファイルをご覧いただくには、「Adobe(R) Reader(R)」が必要です。お持ちでない方はアドビシステムズ社のサイト(新しいウィンドウ)からダウンロード(無料)してください。
よりよいウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。
このページに関するお問い合わせ
秋田市福祉保健部 長寿福祉課 エイジフレンドリーシティ推進担当
〒010-8560 秋田市山王一丁目1番1号 本庁舎2階
電話:018-888-5666 ファクス:018-888-5667
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。