新たな「いのち」を加える動物園(2016年9月)
大森山動物園の写生大会の歴史は古く、創立から数年が経過した1977年に始まり、40年近くも続いている。10数年前からは子どもたちの優秀な作品を保存版に加工し、観覧通路に絵画ギャラリーとして展示している。
動物たちは子どもたちの多様で素直な感性と絵筆に乗り、姿や形、色合いを変え、新たな「いのち」として園路に登場する。本物の動物とは性質の異なる「アートのいのち」であり、秀作ぞろいだ。その数、10数年分で約150点にもなり圧巻である。自慢になるが、こんな動物園は他にはあまり見たことはない。子どもたちの絵筆の技量は必ずしも練達されたものではないが、子ども、児童生徒ならではの、動物に向ける視点や姿勢、描く時の着眼点など感性などは、既成概念に固められた大人のものではない。
ギャラリーに展示される作品はなかなかの秀作ぞろいで、子どもたちの素直な感性にはいつも驚かされる。型にはまり、常識の枠の中にある大人と違い、子どもたちが捉える「いのち」は、動物たちの生きぬくため備えたそれぞれの特徴をよく見抜いていることが多く、実に驚かされる。生きるための大事な部分が何であるのかを、直感しているようで、子どもたちの視線の鋭さに時には怖さを感じることさえある。
ペンギンが大きく開けた口にはリアルな舌の棘が描かれ、イヌワシの鋭い目は特徴そのもの、キリンは太く長いダイナミックな首を誇張し、過酷な砂漠や山岳を歩くラクダの脚は丈夫さを強調するなど、子どもたちは理屈を知らなくとも生きるための大事な部分をしっかりと見抜いている。
動物園は三種類の「いのち」で構成されていると私は考えてきた。多様な「動物のいのち」、それを見る「お客様のいのち」、そして動物を守り育み、来園者を迎える動物園に働く「スタッフのいのち」、これら三つだ。しかし、一心不乱に子どもたちが描いた絵を見ていると、動物園に本物の「動物のいのち」ではない絵筆の力を得て変容した新たな「いのち」、「アートのいのち」が加わったように思えてくる。
本物の動物に出会い、ふれあい、人は時に心動かされ、その感性と絵筆で「動物のいのち」は「アートのいのち」へと姿を変える。新たな「アートのいのち」が加わった動物園に多面的な膨らみが加わったように思えてくる。
昨年から動物園は地元の秋田公立美術大学と連携し「Arts&Zoo」プロジェクトを進めている。子どもたちが描く絵と同じように「動物のいのち」を目の前に感じ、アートする心を通して新しい「いのち」をさらに吹き込んでみたいという思いである。
平成28年9月
大森山動物園 園長 小松 守
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