キリンのカンタ逝く
キリンのカンタ逝く
大森山の人気動物、カンタが正月2日に急逝した。久々のキリンの子、ケイタのお父さんで、まだ11歳だった。人間だったら働き盛りの年齢だろう。
大森山の5歳年上のメス、リンリンのお相手として、彼は2012年に長野市にある茶臼山動物園から子づくりの期待を一身に背負って2歳でやってきた。
来園時のカンタは年の割には小ぶりで、どこか弱々しさを感じさせていた。飼育員や担当獣医師は、カンタの栄養改善や身体づくりに取り組む一方で、メスの繁殖生理の研究も献身的に進めた。そんな努力が実り、カンタが秋田にやってきて8年目、待望の赤ちゃん、ケイタが誕生した。彼の顔つきはどこか大人びて見え、彼に「やったね!」と心の内でエールを送った。
カンタは取り立てて大病を患うようなことはなかったが、ここ2~3年、時折食が細くなり、お腹をこわすなど、どことなく体調がすぐれないことがあったようだ。飼育員は彼の状態に常に気を配り、エサの選択やスタミナづくりなど、体調維持に取り組んだ。無論、獣医陣も大森山が先進的に進めてきたキリンのトレーニングを活かして得た血液検査データ等をもとに必要な治療等に当たったことは言うまでもない。そんな状況が飼育日誌に克明に記載されている。
年の瀬が押し迫り彼の体調はにわかに悪化した。注射等での投薬効果もあり元旦には一時的に幾分状態が良くなったのだが、正月2日早朝、飼育員がモニター画面を通し寝室で倒れているカンタを発見した。急変、急逝であった。
動物園は、目の前で動物たちの感動的なドラマを見てもらえる素晴らしい場であるが、一方では時にいのちの儚さを感じてしまう場でもある。言い訳がましいが、野生動物(動物園動物)の治療は、私自身の獣医体験でもあるが、人力の限界や無力さを何度となく感じてきた。治療等データの絶対的な情報不足は言うまでもないが、治療等の対象となる動物のサイズが、診る人、扱う人と比較して絶対的なスケール差は実は大きな要因で、人力の及ばない限界もある。自然や野生では人知の外でいのちの生死があるが、動物園では目の前でそれが起き、対応しようにも力が及ばず、空しくなることも多い。
大森山はキリンのトレーニングなどで、動物との接点を厚くしながら、健康検査や処置治療等の限界を低くする試みを続けてきた。これまで集めた貴重なデータとカンタの死から得られた経験をこれからのキリン飼育に活かさねばならない責務もある。動物園はそんな地道な取り組みを続けてゆくことを忘れてはなるまい。カンタの生きた記録に捧げつつ。
令和4年1月
大森山動物園~あきぎんオモリンの森~ 園長 小松 守
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