老イヌワシ「鳥海」よ、生き残ってくれ(2016年12月_2)
動物園の隔離舎(動物病院)で発生した鳥インフルエンザ感染の疑いは、同じ建物の中にいたイヌワシやタンチョウなどにも向けられた。当然のことだ。コクチョウ、シロフクロウを斃(たお)したウイルスはかなり強い力を持っているらしく、我々は大いに心配した。病院担当の獣医さんたちは、懸命に感染防御に努めているが、目に見えぬ敵は侮れない。
簡易検査は陰性であっても確定診断が出るまでは心配が尽きない。第1回目の診断が12月2日に届いた。陰性。陽性だったらどうしようと毎日胸が締め付けられるような不安の毎日だった。イヌワシやタンチョウなどは確かに希少な動物だが、私たちには別な思いもあった。イヌワシの名は「鳥海」、タンチョウは「シゲタ」、それぞれ秋田の動物園で、46年、また32年もの長い間、飼育されてきた古参だ。
「鳥海」は現在の動物園の前身、千秋公園の「秋田市児童動物園」時代から飼育され、もうすぐ47歳になる。おそらく世界一長生きのイヌワシである。秋田のイヌワシ飼育の創始的存在でもある。老イヌワシはほとんど目が見えないが食欲は旺盛、生きる気概十分だ。「鳥海」よ、この難局も耐え抜き生きてくれと祈る。
タンチョウの「シゲタ」も由緒あるツルだ。上野動物園が1976年、米国ツル財団との共同繁殖で貸し出した「ユキオ」から生まれた子ども3羽が1984年、日本に里帰りし、その内の1羽が当園10周年記念で上野動物園のご厚意でやってきたタンチョウだ。当時、私も一緒にトラックに乗り込んで運んできたからなおさら思い入れは深い。それぞれに関わった飼育員さんを含め動物への人々の思いはたくさんある。
高齢で今後、希少種イヌワシ保全に役立たないから陽性の時は仕方がないね、と言う論理を展開しようとする人もいるが、高齢だから簡単に死んでもいいというものではないだろう。動物には希少性としての価値もあるだろうが、命の大切さはそれだけでは計れない。愛おしさという人間が持つ感情も大事にしなければならないと思う。命は皆同じだ。生きてきた歴史を忘れさせない大きな役割もある。気を緩めるわけにはいかない。病院担当の獣医さんたち、頼んだぞ。私はそっと外から祈るしかないのが歯がゆい。
平成28年12月
大森山動物園 園長 小松 守
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